医療・福祉の引き継ぎで残すべき4項目|事務手順と情報管理の進め方
医療・福祉の引き継ぎは、期限のある事務、承認が必要な作業、未完了の案件を先に整理するのが基本です。患者・利用者の情報を含まない業務手順から始めると、後任が何をどこで確認すべきかを具体化できます。BATON は、パソコンに残った仕事の書類から、引き継ぎの情報を整理するサービスです。本記事では、医療事務や介護事業所の事務を例に、引き継ぐ項目、確認手順、外部へ出さない情報を解説します。
医療・福祉の引き継ぎでは何を優先するか
最初に決めるのは、後任が担当する範囲と、判断を上司や専門職に戻す範囲です。厚生労働省の2025年雇用動向調査では、「医療,福祉」の年間離職者数は1,200.2千人、約120万200人です。産業別で最多です。離職率は14.3%です。人数の順位と離職率の順位は別です。[1]
対象は、調査対象の16大産業に属する常用労働者5人以上の事業所です。[2] 一般労働者とパートタイム労働者を含みます。[1]
この統計は、調査対象の事業所における労働移動を示すものです。個々の病院や施設の働きやすさを判定する数値ではありません。また、医療・福祉には異なる事業が含まれます。病院の受付と介護施設の運営事務に、同じ引き継ぎ表をそのまま使う事は避けます。
この記事の要点は次の三つです。
- 請求・届出・点検など、期限を越えると次の作業に影響する仕事を先に洗い出します。
- 手順、資料の正本、承認者、未完事項を一組で残します。
- 患者情報や臨床判断は、本記事の外部整理の対象に含めません。
最初の一覧には何を書くか
一覧は、仕事の名前だけで終わらせません。開始のきっかけと完了条件を記します。例えば「請求事務」であれば、月次確認を始める日、院内の確認担当、差し戻し時の戻し先、提出済みと確認する方法までを一つの流れにします。
| 対象業務 | 確認する資料 | 後任へ渡す要点 |
|---|---|---|
| 月次の事務処理 | 承認済み手順・年間予定 | 締切、確認者、未処理の扱い |
| 消耗品の発注 | 発注手順・品目一覧 | 発注日、代替品の承認先 |
| 設備点検の手配 | 契約台帳・点検計画 | 次回予定、連絡窓口、立会担当 |
| 研修や委員会の事務 | 開催計画・空の様式 | 案内時期、準備物、記録の保管先 |
実在する患者名、職員の健康情報、個別契約の秘密情報を表へ転記する必要はありません。制限付き資料は、組織内で承認された保管先と閲覧申請の方法を案内します。
事務の流れと未完事項はどう残すか
日常の作業は、正常に進む手順と、途中で止まる条件を分けて記します。厚生労働省の介護分野の資料でも、業務の明確化、役割分担、手順書、記録様式、情報共有が改善の取組として整理されています。[3] 以下は、それを引き継ぎに使うための具体的な整理案です。
受付や請求の担当交代では何を確認するか
医療事務の想定場面として、受付案内と月次処理を兼務する担当者が異動する場合を考えます。まず、一週間の作業を時間帯別に書き出します。月末・月初にだけ行う作業は、別に加えます。受付開始前の準備、書類の回収、担当部署への受け渡し、終業時の確認という順に並べると、重なりや抜けを見つけやすくなります。
次に、問い合わせを受けた際の案内先を整理します。「費用の照会は会計担当へ」「制度の適用確認は責任者へ」のように、担当者が答えてよい範囲を明示します。診療内容の説明、検査結果の解釈、診療報酬の個別判断は、一般的な引き継ぎ資料に代行させません。
最後に、未完事項を「確認待ち」「承認待ち」「期限未到来」に分け、次の行動と確認日を付けます。患者にひもづく案件は、院内の既存システムで引き継ぎます。外部整理用の資料には含めません。後任への業務説明には、実データの画面写真ではなく、空の様式や架空の記入例を使う方法があります。
介護事業所の事務では何が異なるか
介護事業所では、物品補充、設備修理、研修準備、各種会議の運営など、サービス提供を支える作業から整理すると取り組みやすくなります。例えば備品発注は、「足りなくなったら注文」とは書きません。確認する棚、数える単位、発注を相談する数量、納品を確認する場所まで記します。提案値と、施設で決定済みの基準は区別します。
利用者ごとのケア内容、服薬、食事形態、支援上の留意事項は、専門職と施設の正式な記録・申し送りの仕組みで扱います。本記事が提案する外部整理には含めません。事務手順を整える目的と、個別ケアを共有する目的を混ぜない事が重要です。
引き継ぎ前にどの手順で点検するか
完成の判断は、後任が必要な資料を探し、担当範囲の作業をたどれるかで行います。退職日や異動日から逆算し、次の三段階で進めると、確認漏れを減らしやすくなります。
手順1 正本と更新日をそろえる
同じ名前の手順書が複数ある場合は、現場の責任者に現行版を確認します。資料名、保管場所、適用開始日、最終確認者を一覧にします。廃止済みの様式と取り違えないようにします。古い資料から推測して、最新の運用を補ってはいけません。
制度改定に影響される作業は、毎回参照する公的情報と、院内の改定承認先を併記します。引き継ぎ資料に書いた日付を更新日として見せるだけでは、内容を確認した事にはなりません。確認できていない項目は、そのまま要確認として残します。
手順2 通常時と非常時を分ける
停電やシステム停止時の対応は、施設で承認されたBCP(業務継続計画)を参照します。厚生労働省は、介護施設・事業所向けに、感染症と自然災害のガイドラインやひな形を公開しています。[4] 引き継ぎでは、その所在、更新責任者、訓練予定、事務担当の役割を確認します。
独自の判断で、緊急時の手順を作り替える必要はありません。例えば「設備業者へ連絡する前に施設長へ報告する」と定められているなら、その順序と不在時の代行先を確認します。機密性のある連絡網は、施設内で管理します。整理サービスの対象からは外します。
手順3 後任と一度たどる
空の申請書や架空の発注を使って、資料を探すところから承認先へ戻すところまで確認します。説明が必要だった箇所だけ補い、後任の確認日を記録します。実システムの権限付与や退職者の権限停止は、管理者が組織の手順に従って実施します。
医療情報システムについては、厚生労働省の安全管理ガイドライン第7.0版が2026年6月に公表されています。[5] BATON の利用が、このガイドラインを満たす事を示す物ではありません。
どの情報を外へ出さずに整理するか
外部への送信前に、資料を使う権限と送信の許可を確認する必要があります。個人情報保護委員会・厚生労働省のガイダンスは、医療・介護情報の取扱い、安全管理、委託先の監督などを示しています。[6]
氏名を消しても、日付、病名、年齢、施設内の識別番号などを組み合わせれば、誰の情報か分かる場合があります。「匿名にしたから問題ない」と自己判断しません。本記事の方法では、診療録、看護・介護記録、患者・利用者名簿、児童情報、職員の健康情報、保険関係の個人書類は、外部整理の対象から外します。
パスワードや認証コードも、手順書へ書きません。後任には、正規の権限申請方法を渡します。個人で利用する場合も、勤務先の資料を私物端末へ持ち出してよいとは限りません。会社の承認を得た資料を対象にします。
BATON Personal でできる事
BATON Personal は、自分のパソコンに残る書類などから、仕事の棚卸しと引き継ぎ資料を作ります。メールは別に追加します。追加したメールは、件名と、直近 90 日の本文の冒頭を読みます。チャットの発言は読みません。
この業態では、承認済みの事務手順、年間予定、発注手順と品目一覧、設備の点検計画などが対象になります。そこから、下の物を整理します。
- 整理する物: 資料に書いて在る範囲で、次の物を整理します。取引先と進行中の案件、金額や契約期間、定期的に行っていた業務、直近 90 日の動き、元の資料との対応。分からない事は『今回わからなかったこと』に残します。
- 先に確かめる事: デスクトップが OneDrive などの同期の中に在る場合、まとめたフォルダも同期されます。出力先と同期先が、会社の承認した環境かを、まとめる前に確かめます。
- 流れ:情報を入力して、支払います。自分のフォルダを選びます。中のフォルダの一覧で、読む物にチェックを付けます。送る範囲を画面で確かめます。『整理を始める』を押します。完了のメールから、zip で受け取ります。
- 届く物: 引き継ぎシート(HTML)、AI に渡す一式(MD と JSON)、処理の記録。自分には、仕事の棚卸しと、職務経歴書に足せるスキルが残ります。
- データの扱い: 読み取りと確認の段階では、解析するファイルの本文を外部に送信しません。整理の時だけ、確認した本文の抜粋を弊社指定の AI に送ります。学習に使われない設定です。本人確認・人事・給与・口座などの語が入ったファイル名の書類は、中身を読みません。元のファイルは変更も削除もしません。
- 会社の資料を含む場合: 処理と成果物の整理について、会社の承認が必要です。承認が無い会社の資料は、対象にできません。会社の資料に基づく成果物を社外へ持ち出す時や、私物の環境に保存する時も、会社の承認が必要です。
- 対象から外す物: 患者・利用者の情報が入った書類、診療録、看護・介護記録、患者・利用者名簿、児童情報、職員の健康情報、保険関係の個人書類、機密性のある連絡網。自動で外れる物だけに頼らず、まとめたフォルダ(書類の複製です)から、フォルダを選ぶ前に取り除きます。
- できない事: 電子カルテや介護記録との自動連携はありません。臨床や、個別請求の適否の判断はしません。出力は機械的な抽出で、漏れや誤りが無い事は保証しません。受け取った後は、元の資料と照らしてください。
- 使い道: 自分の仕事の棚卸し、業務の引き継ぎ、転職・異動の前の整理に使います。人事評価や責任追及を主な目的とする利用は、規約で禁止されています。
- 値段: BATON Personal は基本料金+AI 処理費(購入前に表示)です。1 名・1 回の支払いで、月額はありません。
見本は、架空の会社のデータで作った物です。この記事の場面は、使い方のイメージです。
会社が預かったパソコンから整理する時は、法人向けの BATON をご覧ください。法人向けには、外部の AI 事業者に渡さない処理も在ります。
受け取った MD や JSON を別の AI へ渡す時も、中身と送り先について、会社の承認を確かめます。
よくある質問
患者名を消せば資料を送ってよいですか
氏名の削除だけでは判断できません。患者・利用者に関する記録は、対象から外します。資料の扱いは、勤務先の管理責任者へ確認します。
後任が決まっていない場合はどうしますか
資料の保管先と未完事項を先にまとめます。暫定の受け取り責任者を、上司に決めてもらいます。説明相手が未定でも、期限の一覧は準備できます。
口頭でしか説明できない仕事はどう残しますか
作業の開始条件、相談先、終了条件を自分の言葉で書きます。資料にない内容は、確認済みの事実と自分の認識を分けます。そのうえで、責任者の確認を受けます。
BATONだけで引き継ぎは完了しますか
完了しません。整理された資料は、本人と後任が確認します。必要な権限設定や実務の確認も行う必要があります。
職務経歴の整理にも使えますか
BATON Personal の 1 セットには、仕事の棚卸しと、職務経歴書に足せるスキルが入ります。能力の診断はしません。会社の資料に基づく成果物を社外へ持ち出す時は、会社の承認が必要です。患者・利用者の情報が入った書類は、まとめたフォルダから先に取り除きます。資格、実績、数値は、本人が確認します。採用や評価の結果を保証する物ではありません。
まとめ
最初の一歩は、次の締切が近い事務を一つ選び、手順、正本、承認先、未完事項をそろえる事です。
| 時期の目安 | 行うこと |
|---|---|
| 今日 | 担当範囲と外部へ出さない情報を決めます |
| 引き継ぎ準備中 | 現行資料と未完事項を責任者に確認します |
| 最終勤務日前 | 後任と手順をたどり、残件の受け取り先を決めます |
使える資料が散在している場合は、権限と内容を確認したうえで、BATON Personal の案内を確認します。
関連する記事: 職種ごとの残し方は 職種別の引き継ぎで残すべき4項目、事業の形ごとの残し方は 業態別の引き継ぎで残すべきこと で説明しています。
出典
- [1] 令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況 2 産業別の入職と離職(表4-1・表4-2)(厚生労働省・2026年8月31日公表) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/26-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf
- [2] 令和7(2025)年雇用動向調査 調査の概要(厚生労働省・2026-08-31) https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/26-2/dl/gaiyo.pdf
- [3] 介護分野における生産性向上の取組の進め方(厚生労働省・公開年記載なし(2026年10月9日掲載内容確認)) https://www.mhlw.go.jp/stf/kaigo-seisansei-elearning.html
- [4] 介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修資料・動画(厚生労働省・公開年記載なし(令和5年度ひな形を含む掲載版を2026年10月9日確認)) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html
- [5] 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版(厚生労働省・2026年6月) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html
- [6] 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(個人情報保護委員会・厚生労働省・2017年4月14日策定、2026年4月一部改正) https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/